Sustainability

自然資本・生物多様性:TNFD提言に基づく開示

基本的な考え方

当社は、持続可能な社会の実現に向けて、自然資本――すなわち生物多様性、水資源、土壌、空気などの自然が提供する多様な恵み――の保全と持続可能な利用が、企業の長期的な成長と価値創造に不可欠であると認識しています。
とりわけ、化学品製造を基幹事業とする当社にとって、生態系や水環境などへの影響は経営上の重要なリスク・機会であると考えており、気候変動と同様に重要な課題と位置づけています。
これらの外部環境課題に対しては、ESG経営の一環として、他の重要課題と同様のガバナンス体制・リスク管理プロセスのもとで取り組んでおり、経営会議体等での定期的なレビューと意思決定を通じて対応を強化しています。

気候変動への対応:TCFD提言に基づく開示

当社事業と自然資本との関係性の分析

当社では、従前から気候変動と事業の関係性について分析・開示に取り組んでおりますが、同様に重要課題と位置づけている自然資本と当社事業の関係性についても、体系的に把握、評価するための取り組みを開始しました。
自然資本関連の国際的な開示フレームワークであるTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)1の提言に基づく取り組みとして、同フレームワークが推奨する手法であるLEAPアプローチ2に沿って分析を進めています。ここでは2024 年度の取り組みとして、LEAPアプローチの構成要素のうちLocate(自然との接点の特定)・Evaluate(依存と影響の診断)に相当する分析結果について開示します。
なお、Assess(リスク・機会の評価)・Prepare(対応と開示)については、さらなる現状把握ならびに分析を行い、開示の準備を進めてまいります。

  • 1 TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、企業や金融機関向けの自然関連の開示枠組みを作成しているイニシアチブ
  • 2 LEAPアプローチ:自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など、自然関連課題の評価のための統合的なアプローチ

LEAPアプローチに基づく分析

依存と影響の診断

まず当社事業のバリューチェーンと自然資本との関連性について、ENCORE3を用いて依存・影響の分析を行い、ヒートマップを作成しました。

その結果、生態系サービス(自然資本が提供する水資源や気候安定化等の機能)への「依存」については特にバリューチェーン上流において、水供給、水質浄化、水質調整、グローバルな気候調整、洪水緩和、降雨パターン調整の依存度が比較的高いことがわかりました。また、直接操業およびバリューチェーン下流においては、生態系サービスへの依存度は比較的低いことがわかりました。

  • 3 ENCORE (Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure):ビジネスセクターと生産プロセスごとの自然資本への依存と影響を評価するツール。Natural Capital Finance Alliance( 自然資本金融同盟)が主導し、UNEP(国連環境計画)や WCMC(世界自然保全モニタリングセンター)などと共同で開発。

ヒートマップ(依存)

依存
供給 調整
水供給 水質浄化 大気浄化 水質調整 固形廃棄物の浄化 その他の調整(希釈効果) 騒音減衰 その他の調整(感覚的影響の低減) 土壌・土砂保持 グローバルな気候調整 局所的な気候調整 洪水緩和 暴風雨緩和 降雨パターン調整
上流 原料調達/加工 原油・天然ガス M H VL M L M VL L M H L H M
鉱物 H VH M H L M VL L M H L H M VH
電気 火力発電所 H M VL H M VL M M L M L VL
太陽光発電所 M M VL M VH M M M
直接操業 基礎化学品およびフッ素化学品の製造 M M VL M L L VL VL M VL L M M VL
下流 半導体製造 M M VL M L L VL VL L VL L M M VL
電池・蓄電池製造 M M VL M L L VL VL L VL L M M M
基礎化学品製造 M M VL M L L VL VL M VL L M M VL
  • VHVery High:非常に高い
  • HHigh: 高い
  • MMedium:普通
  • LLow:低い
  • VLVery Low:非常に低い

生態系サービスへの「影響」については、特にバリューチェーン上流の原料調達/加工および電気(発電)において、淡水域・海域の利用、その他の非生物資源採取、GHG 排出、大気汚染、有害汚染物質の水・土壌への排出、固形廃棄物の発生と排出、妨害(騒音・光)の影響度が大きいことがわかりました。
また、直接操業およびバリューチェーン下流においては、有害汚染物質の水・土壌への排出と妨害(騒音・光)の影響度が大きいことがわかりました。

ヒートマップ(影響)

影響
土地利用 資源採取 気候変動 汚染 撹乱
陸域の利用 淡水域の利用 海域の利用 水利用 その他の非生物資源採取 GHG排出 大気汚染 有害汚染物質の水・土壌への排出 栄養汚染物質の水・土壌への排出 固形廃棄物の発生と排出 妨害(騒音・光) 外来種の侵入
上流 原料調達/加工 原油・天然ガス L VH VH M H H VH M VH L
鉱物 M VH VH M H M H VH M H VH L
電気 火力発電所 M M M VH VH VH H VH
太陽光発電所 L L L VL VL
直接操業 基礎化学品およびフッ素化学品の製造 L M M M VH M VH
下流 半導体製造 L L VL L H L M
電池・蓄電池製造 L L VL L H L M
基礎化学品製造 L M M M VH M VH
  • VHVery High:非常に高い
  • HHigh: 高い
  • MMedium:普通
  • LLow:低い
  • VLVery Low:非常に低い

ENCOREの分析結果は業界代表値に基づく一般的な評価となっておりますが、当社の直接操業において「非常に高い(VH)」となっている「有害汚染物質の水・土壌への排出」について、当社は従前より適切な対応を行っております。具体的には、ESG(環境・安全・ガバナンス)を統合した専任組織による監視体制のもと、省エネルギー推進や有害物質等の排出削減に対する継続的な投資と定期的な取り組みの見直しを行っています。また、法令順守と透明性確保の観点から、水質汚濁防止法や地方条例に基づく排水濃度の測定義務を継続的に履行しており、過去10年以上にわたり違反や事故は確認されておりません。今後もこれらの取り組みを通じてリスクの顕在化を防ぐとともに、影響の極小化に努めてまいります。

汚染物質の排出削減と資源の有効利用

また、ENCOREの特性上、バリューチェーン上流と位置付けられておりますが、当社事業においては電解工程を中心に大量の電力を消費します。当社では、これらの発電時に生じるGHG排出(当社のScope2排出量)による気候変動の影響について、従前から事業に密接に関わる重要課題として認識しており、対策に取り組んでいます。
具体的には、火力発電と比較して環境影響の小さい再生可能エネルギーの活用を検討しております。2023年度には主力の渋川工場、水島工場に太陽光発電設備を導入したほか、FIT非化石証書(再エネ指定)の調達を進めており、実質的に再エネ由来の電力使用比率の向上に取り組んでいます。今後も再生可能エネルギーの創出、利用を推進することで自然への影響の低減に取り組んでまいります。

気候変動への対応:TCFD提言に基づく開示

今回、ENCOREの分析結果において、直接操業を除いた当社のバリューチェーンにおける依存度・影響度が「非常に高い(VH)」と評価された要因(例えばバリューチェーン上流の原料調達/加工における「淡水域・海域の利用」)については、その対象となる事業拠点を特定し評価するなど、今後当社のバリューチェーンの実態に即した把握を行うべく、対応を検討しています。

自然との接点の特定

次に、当社拠点と自然との接点を発見し、当社として優先的に対応する地域・拠点を特定するため、当社グループの全製造拠点について、TNFDが推奨する各種ツール4を用いて①保全重要度、②生態系の完全性、③生態系の急激な劣化、④水ストレス5、⑤先住民族と地域社会 の5項目を評価しました。
さらに当社事業にとっての財務的重要性も考慮し、優先地域として、渋川工場、水島工場、関東電化ファインプロダクツ韓国の3拠点を特定しました。
今後は、特定された優先地域における自然資本に対する依存・影響の状況について、現地ヒアリング等を含め、より詳細な調査、分析に取り組む予定です。

  • 4 IBAT, Resource Watch, WWF Biodiversity Risk Filter, Aqueduct, Land mark
  • 5 限られた水資源に対し需要が供給を上回る度合いを示す指標で、一般に「年間総取水量 ÷ 再生可能水資源量」で表され、この比率が高いほど水資源の逼迫が大きいことを意味します。

優先地域の評価

優先地域 評価指標
保全重要性 生態系の完全性 生態系の急激な劣化 水ストレス 先住民族と地域社会
渋川工場 カテゴリⅠ~Ⅳ6の保護地域から離れている 生態系の完全性が高い地域ではない 生態系の劣化度合いは中程度の地域 水ストレスは中程度の地域 先住民族と地域社会が管理する土地との隣接は確認できず
水島工場 カテゴリⅣの保護地域に近い 水ストレスは低い地域
関東電化ファインプロダクツ韓国 生態系の劣化が進んでいる恐れのある地域 水ストレスが高い地域
  • 6 IUCN(International Union for Conservation of Nature, 国際自然保護連合)が分類する保護地域(カテゴリⅠ~Ⅶ)のうち、カテゴリⅠ~Ⅳは、厳正保護地域・原生自然地域(カテゴリⅠ)、国立公園(カテゴリⅡ)、天然記念物(カテゴリⅢ)、種と生息地管理地域(カテゴリⅣ)を指す

国内工場の取り組み

渋川工場では、渋川市の花であるあじさいなどの花や緑を育てることで地域の環境美化と地球温暖化防止に取り組む「渋川広域ものづくり協議会」の活動に参加しています。
2024年度は環境美化活動に7日間延べ29名が参加しました。そのほか、年2回開催される小野池あじさい公園に隣接する里山の保全活動と植樹活動への参加や、尾瀬保護財団や漁業組合への寄付などを通じて、生物多様性保全の取り組みを支援しています。水島工場では岡山県内での植樹イベントなどを通じ、地域の生物多様性保全の取り組みに参加しています。

群馬県のホームページで渋川広域ものづくり協議会の活動が紹介されました。

群馬県Webサイト:NPO・ボランティア・市民活動・協働 > 協働による地域づくり(令和3年度掲載事例)