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プロジェクトストーリー 半導体用新規エッチングガス“Z”の開発 Project Story

無から有なるものの創造――
それは、化学の未来を牽引する者たちにとっての宿命でもあった

無とは、化学の世界ではゼロを指すわけではない。
“あらたな可能性”を示し、未来をひも解くキー・ワードとなる。
これまでに培ってきた経験と誇りがあるからこそ、成しえた今回のプロジェクト。
半導体製造に用いられる新規エッチングガスの研究開発というミッションを受け、
勇猛果敢に挑んだ三人の精鋭を追った。
プロジェクトを開花させたメンバーのリアルな声を栞に、ストーリーは展開していく。

茂木 大亮
開発営業部
2002年入社
理工学研究科工業化学専攻
「産業のベースは、なんといってもモノづくり。私たちの暮らしが豊かになるような製品を産みだしていきます」
谷田 樹美
新製品開発本部 渋川開発研究所
2003年入社
工学研究科材料化学専攻
「次世代製品の研究開発に際しては、関東電化にしか持ち得ない技術で勝負したいです」
白濱 光人
新製品開発本部 渋川開発研究所
2006年入社
自然科学研究科物質生命工学専攻
「和やかな雰囲気の中にも研究にかける情熱が充満しています!」

所属・部署名は取材当時のものです。

半導体用新規エッチングガス“Z”の開発

半導体製造におけるエッチング工程で用いられる特殊ガス。
最先端のプロセスにおいて、微細加工を実現する為に重要なガスとなっている。

Chapter-Ⅰ プロローグ
重い扉を開けた実績と信頼感

プロローグ

プロジェクトの取りまとめを担当していた開発営業部の茂木から当時の企画書が差し出され、開発研究所員の谷田がストーリーの発端を語り始めた。
「世界でトップシェアを競う半導体メーカーA社様との技術ミーティングの際、半導体微細加工用に期待される新規エッチングガスとして“Z”の名前が先方より示されました」。
ただ、この時点ではさほどユーザー側のニーズは感じられない雰囲気であったが、まずは話を社に持ち帰って“Z”の情報収集に当たることから開始した。

手がかりと足がかり

早速“Z”について調査が開始され、「とにかくまずはサンプルを作ってみる」という方針のもと試行錯誤した結果、実験スケールながら少量の“Z”を得ることに成功した。
「次の技術ミーティングが開かれた際に、当社で試作した“Z”のデータをユーザー様に提示して反応を見てみました。すると、ユーザー様から思いのほか多くの御質問を頂き、市場における“Z”の可能性を感じ取ることができました。」
ここで感触をつかみ取った茂木は、スピード感を持って“Z”の開発を進める為、プロジェクト化を立案した。
「その後はユーザー様と頻繁にミーティングを実施し、そこで吸い上げられた要求に対する回答やスケジュールを示して行きました。もちろん、開発現場である研究所へも何度も足を運びました」。
無から有へ――。製品自体もそうだが、どの部分をいかに有効的に見せていくかが、プロジェクトの扉を開けるキーとなる。新製品を市場に出すことをミッションとして全国を飛び回る茂木が、まさに足で稼いだプロジェクト。一歩一歩だが、確実に階段を駆け上がっていった。

サンプル開発から量産化へ

開発を担当する研究所側のリーダーには、谷田がキャスティングされた。これまでも新製品の創出に幾度となく関わってきた実績のある研究員。まずは文献調査や実験プランニングから開始し、試薬調達や反応器設計、反応条件の検討など、評価用サンプルの試作に至るまで根気強く対応していった。
「谷田君には“Z”のサンプル試作はもとより、量産供給体制の確立に向けたテーマを兼任してもらいました。ユーザー様が何を必要としているかを考えながら開発しくれるので、頼もしい限りです」。
そう谷田を讃える茂木が、納入した“Z”のサンプル評価結果をユーザーに伺ったところ、良好な結果が得られたので“Z”の量産化を早期に進めて欲しいとの話を受けた。また、その過程でもユーザー側の要求事項に柔軟に対応したことで、ユーザーの信頼も日に日に大きくなっていった。気がかりなことをひとつ除いては・・・


Chapter-Ⅱ リアル・プロジェクト
ユーザーニーズと研究開発
―それぞれの描く到着点へ向かって―

スピード感の是非を超えて

既存の化学製品の場合、生産やプロモーションに際しては企業間の信頼が核となるが、新製品の開発をプロジェクト化して遂行していくには、そこに携わる開発者とユーザーとの信頼関係も不可欠要素となる。今回の場合は特に、『早期の品質向上及び量産化』というユーザーの要望に即応しなければならない。プロジェクトのスピード感に存在するメリットとデメリット。フローが迅速化する一方、スピード偏重によるイージーミスなどの危険性をはらむことになる。
だが、三人の精鋭は口を揃えて「スピードが決め手となって良かった」と何事もなかったように微笑んだ。

経験が産んだプラス思考

「開発スピードを保ちながら的確に対応して行くことで、ユーザーとの信頼関係を構築しました」。
谷田の言葉に、茂木がすぐさま応じる。
「全編にわたって関東電化の蓄積、保有してきた技術を活かせたプロジェクトだったと思います。『必ずできるんだ』という強い気持ちとプラス思考で要求に迅速に対応し、ユーザー様に私たちの自信の程をお見せすることで、信頼を得ることができたのだと思います」。
また、プロジェクトスタート間もなくはサポート役だった白濱が本格参入し、コア・メンバーが揃うことになった。
「私はまず、この製品と関連する他ガスの技術ノウハウを水平展開し、品質改善やコストダウンを実現することを検討しました。スピード感を見せながらも、途中途中でユーザー様の納得のいくメリットが提示できたと思います」。
と、白濱は笑顔を見せた。『スピードと品質のマッチング』どうやら、プロジェクトのマネージメント意識に対して三人の息はピッタリ合っていたようだ。谷田が次のように話してくれた。

付加価値の相乗効果

「茂木さんは以前、私と同じ部署の研究員でした。現在は本社にて新製品開発の為にユーザーとの窓口となる部門となっておりますが、研究員の目線でアドバイスしてくれるので、とてもやりやすかったです。プロジェクトの展開がスムーズでした。時おり、ちょっとしたアドバイスを投げてくれるのですが、これがまた効果テキメン。知識も経験も多い方なのでハナシが早い反面、時々はシビアな指摘もありますよ(笑)」
新製品の開発において、ユーザーニーズを吸い上げて情報を伝達する部門の茂木と、実際の開発を担当する研究所側のメンバーが連絡体制を密にすることで、効率的なフローを描くことができたのだ。

視野を広くフローを速く

「確かに時間はタイトでしたけど、失敗している間も無く、その分、集中できましたね(笑)」
と、白濱が振り返る。プロジェクトのフロー・スピードに順応できる各自のスキルもさることながら、打合せ時のユーザー側の反応から“Z”の市場が今後拡大されるであろうことを予測した茂木の嗅覚もプロジェクトを支えた。
「マーケットの調査・分析力を培うことも、私は重要な技術のひとつだと思っています」。
視野の広いプレゼンテーションとユーザー要求へのスピード感を持った的確な回答が功を奏し、ユーザーから高評価を受けている。通例では新規特殊ガスが開発されてから軌道に乗るまでには五年以上はかかるとも言われるが、今回は二年という異例のスピードで開発から量産化まで、それぞれのミッションが駆け抜けていった。


Chapter-Ⅲ コミュニケーション
技術と気持ちを結実させたチームワーク

マネージメント力

ユーザーと開発サイドの間に立ちプロジェクトの調整を行ってきた茂木は、胸をなでおろす。
「これまで一緒にやってきて実績のあるメンバーですから、必ず目標を達成できると信じていましたよ」。
ともに研究開発に明け暮れた白濱も「二人とも頼りになる先輩です」と、信頼感をあらわにした。
プロジェクト中盤、分析技術調査や生産能力の拡大、出荷対応などの一連の業務を含めたマネージメントまで幅広く兼務した谷田。「新製品開発の時は、不確定要素も多くいつも苦労します」と振り返るが、そこは百戦錬磨。メンバーとのチームワークも良く、次々と難題をクリアしていった。白濱は振り返る。
「相手はエンドユーザーだけではなく、私たちと同じくプロとして化学製品を扱う競合相手も見据えておく必要があります。“Z”の製品としての価値だけではなく、関東電化の新製品開発力をアピールしていくことも使命だと思っています」。
これも、プロジェクトに課せられるマネージメント力のひとつだろう。

個性を生かすチームプレー

「市場調査もやりますし、顧客や各部門の折り合いをつけることも私の役割」。
プロジェクトを進める上で、目標に向かって各部門が連携をとりながら進められる様、調整には特に配慮したと茂木は語る。顧客ニーズを開発現場に伝え、その回答を基に関係者と折り合いをつける責務。さらにはコミュニケーションの中で新たなビジネスチャンスを創出し、製品化していく過程で求められるスキル。彼の趣味の野球に例えるとしたなら要のキャッチャー、それともミッションを勝利に導くエースだろうか。いずれにせよ、プロジェクトというものは一人ひとりが中心的存在であるべきだが、一人では決して成しえない。時に個性が際立ち、時にチームプレーが大きく結実する――。それはまた関東電化の特色でもあるのだ。

情報の『精製』

さらに、茂木がコミュニケーションの礎を解いてくれた。
「プロジェクトのチームワークにおいて、情報収集は重要な要素。情報を得るだけではなく、メンバーの皆と共有し、そこからまた質の高い情報を引き出していくことが大切だと思います。製品開発と同じく情報の『精製』ですね」。
ユーザーとの信頼関係はもちろん、メンバー同士の絆も時を追うごとに深まっていったようだ。その後、“Z”の品質改善や量産化にも目処がつき、プロジェクトに人員が追加されスピードは加速度を増す。開発スタートからおよそ二年という速さで新規エッチングガス“Z”は、ユーザー量産機での採用へ。メンバーの良好なリレーションによって、プロジェクトは最終章へと入っていった。


Chapter-Ⅳ そして化学の未来へ
世界を舞台に拡がるビジネス・スケール

二つの成果

さまざまなフェーズを乗り越え、『創造的技術開発力』で新規エッチングガス“Z”を製品化していった今回のプロジェクト。関東電化のコア技術であるフッ素系ガスの研究・開発・生産・関連技術を応用しながら、新たな技術と組み合わせることにより、“Z”を新製品としてラインナップできた。現在では他半導体メーカーへの拡販を推進中だ。本プロジェクトで得られた成果は大きく二つあると、谷田が力強く話してくれた。
「ひとつは<これまでに培ってきた技術が新製品開発でも応用できることの再認識>
そして<研究開発から製品化までを短期間で達成できるフローが描けたこと>」。

『新製品開発』の関東電化

「従来のフッ素の関東電化に加えて『新製品開発も任せられる関東電化』としてユーザー側への認知度が高まりました」。
白濱の言葉に象徴されるように、このプロジェクトは後で振り返ると関東電化のターニングポイントとなっているのかもしれない。高純度品を精製する技術や、型にとらわれない創造性で一気に上りつめる開発力。付加価値のある化学反応によって、新たなオンリーワン製品を産みだしていく力を充填したことになる。
「“オンリーワン”って響きがいいですよね」。
入社五年目。合成法の確立や拡大設備の設計・改良を担う開発研究所のホープ、白濱が目を輝かせた。

新製品と新たなフロー

茂木は次の案件の企画書を手にしながら言葉を漏らした。
「産業のベースは、なんといっても『モノづくり』。今後も私たちの暮らしが豊かになるような製品を産みだし、新しいマーケット向けてどんどん投入して行きたいですね」。
また、本プロジェクトで得られた成果は社内アセットとしても効用が生じるだろう。研究という概念に縛られることなく幅広い視野を持ち、斬新なアイディアを新製品開発に投じる谷田がきっぱりとした口調で続いた。
「今回のプロジェクトのフローは新製品開発だけではなく、社員教育にも生きてきます。新規プロジェクトに参画できるメンバーを増やすためにも、私たちが今回経験したことを次に繋げていく役割を担っているくらいの気概で、研究に邁進していきたいですね」。

世界に向けて

ここに、本プロジェクトが社内表彰で優秀賞を勝ち得たことも付け加えておこう。関東電化の技術開発力とメンバーの製品化にかける想いが結実した証である。ただ、彼らのストーリーはこれで終ったわけではない。今後の目標を尋ねると、
「まずは本製品の更なる拡販に繋げる為にデータを補足し、次なる新製品の開発に向けて磨きをかけていきたい」と、三人が再び口を揃えた。
その理由は
「世界中の企業とのビジネスが待っているから」。
これまでプロジェクトを取りまとめて来た茂木が力強く締めてくれた。
時代とモノ、そして人との融合によって、また新たなプロジェクトストーリーが生まれようとしている。『創造的』である以上は斬新に、『開発型』として力強く、シナリオを描きながら。
[完]